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口頭発表

 

博物館としての動物園・水族館-その教育的意義

 

栗原 祐司

東京国立博物館総務部長

 

日本では、法律上、動物園・水族館は博物館の一館種であり、社会教育施設としての位置づけがなされている。近年、動物園・水族館は、生物多様性の保全や種の保存という一自治体の規模をはるかに越えたグローバルな役割を担うことが求められ、むしろ環境教育施設としての位置づけが強くなっている。

歴史的には、1951年の博物館法制定に際して、博物館研究の第一人者であった棚橋源太郎と上野動物園長の古賀忠道が、「動物園・水族館の本体は動物・水族の収集と育成にあり、生きた動物・水族を飼育展示している点に関しては博物館・美術館と同一であり、一種の自然科学博物館と見なすこともできる」、と強く主張し、動物園・水族館を博物館法の対象に含めることになった。しかし現実には、戦後設置された動物園・水族館の多くは、風光明媚な観光地に立地し、広大な緑地公園や遊園地等と併設がなされ、娯楽やレジャーを目的とした観光施設の側面が強かったことは否定できない。

ようやく1975年のベオグラード憲章をきっかけとして、環境教育の推進が世界的に拡大し、我が国でも野生動物や自然環境を取り扱う動物園・水族館に大きな期待が寄せられるようになり、その位置づけも変化するようになる。さらに1990年代以降、多額の投資と運営費を必要とする動物園・水族館が民営産業として経営が成り立たなくなった経済的背景もあり、公立と一部の大型私立動物園・水族館だけが社会の要請にあわせて変化しながら、獣医師や飼育技師、学芸員等の専門家を配置してその質的な水準の向上を図り、種の保存や環境教育、調査研究、レクリエーションの充実に努めていった。

しかしながら、近年、地方自治体においても財政難に直面し、効率化、合理化が求められるようになり、多くの公立博物館が業務を縮小・廃止、あるいは統合や指定管理者制度の導入を余儀なくされている。動物園・水族館もその例外ではなく、動物園・水族館の新たな未来像が模索されるようになっている。日本動物園水族館協会が、今年から「いのちの博物館の実現に向けて-消えていいのか、日本の動物園・水族館」をテーマに全国各地でシンポジウムを開催しているのは、そのあらわれであろう。
そのような状況の中で、動物園・水族館が求められている社会的役割や意義とは何かを改めて考えたときに、いま一度動物園・水族館が社会教育施設であることを再認識する必要がある。近年の動物園における「行動展示」のブームや、生息環境を再現する「ランドスケープ・イマージョン」等は、動物や水族の生き生きとした姿や安息の姿を見せ、彼らの通訳者となって情報を発信することを求めた結果であり、まさに動物園・水族館の教育機能が人びとに受け入れられたことにほかならないからである。こうした機能は、歴史博物館や美術館等、人文系博物館と連携することによって、来館者により多くの情報を発信し、深みのある感動と理解を与えることが期待される。管見の限りでは、アジアの動物園・水族館では、まだまだこうした取組みが不十分と言わざるを得ず、AZECにおける議論を通じた動物園教育の充実を期待したい。

 

 

1986年 文部省(現文部科学省)入省
文化庁、国土庁、北茨城市教育委員会、ニューヨーク日本人学校等の勤務を経て、
2007年7月より文部科学省社会教育課企画官、
2009年5月より文化庁美術学芸課長、
2012年4月より京都国立博物館副館長、
2013年4月より現職。
ICOM日本委員会委員、全日本博物館学会役員、日本ミュージアムマネージメント学会理事、日本展示学会理事、國學院大學大学院非常勤講師。国内約5600館、海外約3000館の博物館を訪問。
専門は、博物館学、文化政策論。